メディアの隙間から

10数年にわたるPRマン時代の感性をベースに、メディアに日々接する中で感じた??を徒然なるままにつぶやく。2020年末に本当に久しぶりに再開

なぜ日本はケンカしないのか

 北京五輪に向けてのハンドボール予選における中東勢の審判疑惑により、予選が再実施されることが昨年末から報道されてきた。どちらかといえばマイナーなこの種目への関心が高まると同時に、中東イスラム諸国のなりふり構わない強引なやり方が批判の対象にもなってきた。だが、昨日不可解な報道が飛び込んできた。予選の再実施を求める国際ハンドボール連盟(IHF)の決定に対して、アジア連盟(AHF)が拒否すると回答したのである。しかも常任理事会での決定といいながら、その構成メンバーである日本には通知もせず抜き打ちでの決定だった。そのうえ新聞によれば、日本協会には6日夕方時点で、会議の決定事項も届いていないという。
 この事態に対する日本協会のコメントを読んでがっかりした。TVでも同様のコメントを発していたが、「想定した結果だ。日本はIHFの決定を受けて粛々と準備を進めるしかない」というのだ。まるで事態を予想していて、しかも泰然自若、慌てないことを自慢するかのような言い方だ。アジア連盟は国際ハンドボール連盟の下部組織であり、いわば謀反を起こしているわけだ。場合によっては除名処分さえあるかもしれない。さらに報道によれば、抗議文を提出することも検討していると言うが、抗議文程度で何か効果があると思っているのだろうか。中東、特に今回主役というより悪役を演じたクェートにとって、そんなことは織り込み済みだろう。日本協会の市原副会長は、さらに「再戦決定は公式な事項であり、IHFの指導力も問われる」と述べているが、それはIHFに任せていますから日本は何もしませんよ、ということを意味している。肝心の日本はどうなのか。どうケンカするつもりなのか。たぶんケンかなんて大それたことはしないだろう。クェートに対して強力にプレッシャーを掛けることもしない。例えば、日本に加えて韓国、中国、インドネシア、香港、シンガポール、マレーシアなど、東アジア諸国を巻き込み、東アジア連盟として中東諸国と別組織を提唱したっていい。もともとアジアといっても、日本を始めとする東アジアと中東とは価値観や倫理観がかなり違う。単に地理的なくくりでいっしょになっているだけだ。少なくとも、クェートに向けて全権大使を急遽派遣して、事態を正確に把握し、場合によってはタンカのひとつも切ってくるくらいの元気がなくてどうするというのか。さらにいえば、これはスポーツの世界の問題とはいえ、日本がなめられていることになるのだから、外交ルートを動かして何らかの手を打ってもいい。民間人が乗り込んだら暗殺されるかもしれないなど、心配ならなおさら外交手腕を発揮すべきだ。正式な外交担当者が行って、それで万が一が起こればそれこそ国際問題になる。クェートもそれほどバカではあるまい。
 今回の事態では、日本は始めから闘うことを放棄してはいないか。協会のまるでお役所みたいな反応では、選手達が可哀想だ。スポーツは、勝ち負けもさりながらフェアプレーの精神こそ最も重要である。しかし、その一方で国を背負って戦う場面では、戦争だともいわれる。この点で特に中東諸国は、徹底して勝ちにこだわる気持ちが強い。そのためには多少あこぎなことでも平気だ。例えば、昨年のサッカーアジア選手権予選リーグでの出来事。開催地での練習に臨んだ日本のグラウンドに、規定よりもずっと早い時刻にクェートチームが乗り込んできた(これもクェートだ!)。その時間帯に日本チームはセットプレーの練習をしていた。それは日本によって重要な武器である。ということは敵にとっては脅威である。そこで彼らはルールを無視して、乗り込んできた。オシム監督は厳重に抗議したが、一向に聞き入れる様子はない。そのまま練習を強行すれば、手の内を明かすことになる。やむなく予定より早く切り上げて結局セットプレーの確認はできなかった。練習を見られれば参考になるし、日本が中止すれば確認作業を妨害したことになって、クェートにすればどっちに転んでもごね得だったのだ。
 今回の事態に対して、日本ハンドボール協会は近日中に今後の対策を発表するという。どんな対策を講じるのか、するならばその背景にある意図は何か、あるいは何もしないのか、メディアはその発表の場でしっかり問い正して欲しい。