メディアの隙間から

10数年にわたるPRマン時代の感性をベースに、メディアに日々接する中で感じた??を徒然なるままにつぶやく。2020年末に本当に久しぶりに再開

性犯罪者の再犯が防げない日本司法の現状

6日(日)のNHKスペシャルは「性犯罪・再犯をどう防ぐか」と題し、04年暮れに奈良県で起こった誘拐殺害事件を導入として、性犯罪の特質、被疑者の心理的特性などをあの事件の被告のコメントや他の犯罪経験者あるいは受刑者の出演も交えての構成であった。番組後半では、再犯防止についての欧米での取り組みを紹介しつつ、日本の現状と比較することで日本での問題点をわかりやすく浮き彫りにしていた。番組全体を通じて表現されていたのは、性犯罪者には通常の人間と比べて異常に高い性衝動が見られ、特に幼児嗜好の強い者にとっては本人にも制御しにくいレベルになってしまうことが現実の問題としてみられる、という点である。つまり性犯罪者は、ある面では精神的な病理を抱えた存在であるとの視点だ。したがって矯正プログラムとして、精神病理学の立場からの研究が必要であろう、との指摘もあった。
そうして現実をふまえて現在の司法制度を検証したとき、欠けているのは的確な更生プログラムが構築されていないことだ。犯罪者のほとんどは、犯した罪に見合う量刑を適正な裁判の場で決定され、一定期間を服役したら社会に復帰するのが原則になっている。刑務所は、受刑者の自由を拘束し一定の労働に囚役させることで罪の償いをさせ、刑期が明けてからの社会復帰を助けるための教育訓練を施すことを目的としている。したがって性犯罪者だけについての特別な更生プログラムは実施されてはいない。結果として殺人など重大な結果に結びつかない大多数の性犯罪者は、一定期間の刑期を終えると社会に戻ってくる。そこでまた同様の犯罪を犯すのである。アメリカでは、性犯罪社の経歴や写真など個人情報がネットで公開される。イギリスでは、GPSのような発信機の取り付けが義務つけられるという。しかしいずれも日本では、法制上の壁があり、実施は難しい。そこでNHkではカナダのプログラムを詳しく紹介していた。それによると、性犯罪者は出所後に詳細な精神分析を受ける。その結果、社会復帰に問題ありと判定されると必要な期間、矯正施設に出頭して治療行為を受けることが義務付けられる。そこでは担当員の心理的なカウンセリングや男性ホルモンを抑制する薬物投与も導入されている。この取り組みを導入してから性犯罪者の再犯率が半減したという。これは日本にとっては、今後学ぶべきケーススタディではないだろうか。今の日本の司法制度に欠落しているのが、性犯罪への病理的アプローチであり、そこから導き出される矯正プログラムの研究である。

当コラムでは、今年はじめにも「性犯罪は再犯する」と題して、讀賣新聞の記事をテーマに論点を掲げたが、この時点では被害者の人権と被疑者の個人情報管理をどう守るべきか、といった視点であった。その時のコラムから一部引用すると、<女性の安全と健康のための支援教育センター代表理事でもある弁護士の角田由紀子氏は、特に今回の事件が悲惨なものであるだけに、「なぜ性犯罪者だけ特別になるのか。性犯罪者とはどんな前科を持つ人間なのか、再犯率が高いというがデータはあるのか、などの議論不在のまま気分に流されている」と危険を指摘する。再犯率を見る限り、氏の実務経験に照らすとむしろ覚醒剤や窃盗などのほうが高いのだという。正確なデータをふまえて論議を積み重ねることが必要だと述べる。>とある。しかし、性犯罪者は特別だと断定してもいいのではないか。つまり今回のNHKの番組からも伺えるように、ある種の病気だとすれば、その根源を治療しない限りは、また同じような犯罪を犯す。そして被害者は通常の犯罪被害者とは比べ物にならないほどの心の深手を負ってしまう。極端な場合は、その後の人生をまったく通常の感覚で過ごせなくなってしまうほどの傷になってしまう。しかもその時間は被疑者が判決で刑に服する時間よりも圧倒的に長いのである。

なお、5月3〜5日の3日間連載で毎日新聞でも「魂の殺人〜児童ポルノとネット社会〜」と題して、性犯罪を取り巻く問題点を特集している。こちらは、今年はじめ神奈川県警などが「関西援交シリーズ事件」という児童ポルノとネット社会との関連での取材であったが、同じ時期に性犯罪を巡る取材がTVでも新聞でも取り上げられたのは、それだけ社会的な危機感の高まりが背景にあるものと見える。今後とも何か衝撃的な出来事がなくても、こうした性犯罪を巡る報道は様々なメディアで様々な切り口で取り上げ続けて欲しいものだ。そうでないと、日本の司法制度は変わらないし、犯罪者はまた社会に復帰して新たな悲劇を生み出す。

ちなみに、毎日新聞の記事は、URL=
http://www.mainichi-msn.co.jp/kurashi/kokoro/tamashii/news/20050605ddm010040175000c.html
で見ることができる。5月19日付けと6月5日付のバックナンバーも見ることができる。
NHKの番組のサマリーはURL= http://www.nhk.or.jp/special/ で見られる。再放送は、
【総合テレビ】にて 11月9日(水)午前0:15〜1:07(8日(火)深夜の放送となる。