メディアの隙間から

10数年にわたるPRマン時代の感性をベースに、メディアに日々接する中で感じた??を徒然なるままにつぶやく。2020年末に本当に久しぶりに再開

医の世界に起こるさまざまな事件、出来事

メディアを日々眺めていると、医療を取り巻くさまざまな事件や出来事が実に多いことに気付かされる。だからといって医者や病院がいい加減で、医療ミスなど日常茶飯事だとは言わないが、やはりどんな些細な事柄でも、医療を巡る問題は人命にかかることだけにメディアも取り上げることが多くなる。それにして何故こうも多いのか。28日付の讀賣新聞社会面に図らずも医療を巡る問題が3件も扱われていた。医療報道で問題になるのはまず医療過誤あるいはそこから発展した訴訟があるが、その流れの中で注目すべきは医療技術やモラルだけではない。情報管理がどうなっているのかが、実は非常に重要な視点であることに注意したい。実際これがしっかりしていれば起こらなかったであろう事件はかなり多いはずだ。


28日の記事の1件目は、岩手県一関市の県立磐井病院で病理検査会社が患者を取り違えて報告したために、本来必要のない別の患者の前立腺を摘出してしまったというもの。たまたま同じ病院でガンの検査を受けた患者が二人いて、そのデータが検査会社に回され、検査会社からのデータを受け取った病院はその情報を鵜呑みにしたのが原因である。この件では、検査を依頼した病院から検査会社が情報を受け取った段階で、どんな処理をしていたのか、次に検査会社からの報告データを受け取った病院側では、情報の整合性についてなんらかのチェック機能を持っていたのか、という点を検証すべきだと思うのだが、紙面では残念ながらこの点には触れていない。この事件は、地方紙の岩手日報に詳しいので、一部引用すると「2人は昨年3月中旬、精密検査で前立腺がんが疑われたため、同病院は前立腺の一部を採取し、仙台市の日本病理研究所(玉橋信彰代表取締役兼所長)に検査を依頼。同研究所はベテランの診断師が2人の検体を同じ日に検査した。この際、患者番号を取り違えて診断書を作り、病院に報告したという。」というのが今回の事件の流れになる。病院ではこの検査報告に基づいてそのまま患者を取り違えたまま対処してしまった。
 再度岩手日報によれば、「検査会社の所長は、『初歩的な単純ミス。私の責任であり、改善策を徹底している。検体のチェックを徹底する』と再発防止を強調した。また、院長は『病院としても検証し、事故再発防止策を検討する』と説明。同研究所に対しては『このような過誤が起きないよう、厳しい対策立案などを要請する』としている。」とあるが、具体的に何をどうするのかの情報はまだない。確かに事件が発生してすぐに会見を開き、各方面への謝罪などで頭はそこまで回らないのであろうが、であればメディア側がリードして少なくとも現状どんなシステムになっているのかをつぶさに検証することは出来たはずだし、そこから第三者の客観的視点でミスを防ぐための方策のヒントを垣間見せることは出来たのではないかと思う。


次の記事は、昨晩のTV報道でも取り上げていたが、駿河台の日大病院を警視庁が捜査したというもの。今月4日に酸素チューブを誤って接続された患者が死亡するという事件を受けて警視庁は関係書類の押収など、病院への家宅捜査を行った。この医療ミスは、患者の遺族には発生から2週間も知らされなかったという。同病院によれば、当初匿名のメールによって20日に初めて医療ミスを把握したと述べていたが、警視庁捜査1課では事故から3日後の7日には担当医師がミスを犯した看護師の同僚から報告を受けており、さらにその医師から翌8日には上司の脳神経外科部長に報告があったことを掴んでいた。病院がウソをついていたことになる。この件は、今後捜査の進展につれて、様々な情報や事実が明らかにされてくるだろうが、ここでも重要なのはモラルと並んで情報である。情報を病院が遺族に対して隠匿したこと、事件の事実認識と報告の流れを情報としてきちんと伝えていないことが現在浮かび上がっている。
今後必要なことは、事件は何故発生したのかという直接的な解明もさることながら病院内でどんな経緯で誰が判断して情報操作したのかを明確にすることだ。この視点こそメディアに要求されるものだろう。


3件目は、すでに多くのメディアで取り上げられている件であるが、中央区国立がんセンター中央病院でガンの治療中にHIVC型肝炎ウイルスに重複感染した山本義則さんが薬害エイズ被害の損害賠償を求めて東京地裁に提訴し、昨日記者会見を開いたという記事。感染状況が非加熱製剤による薬害エイズ患者の特徴と一致している。また山本さんはがんセンター以外では輸血を受けていない、性感染の可能性はないことから、すでに旧厚生省が99年に「同センターで輸血された献血血液でHIV感染した」と認定している。現在の主治医も、検査結果から非加熱製剤による感染を疑うのが自然としている。
 一方、がんセンターの担当医がすでに死亡しているため、直接治療担当者からの事情聴取は出来ないのが、障害となっていて、残る客観的資料であるカルテには投与の記録がないという。しかし、病院側では治療中に感染したことは間違いないと認めている。考えられるのは2点。実際に非加熱製剤を投与したのにカルテには記載しなかった、あるいは投与の事実を病院側が隠匿している、という点だ。今回カルテを検証したのは当事者である病院のようだが、果たしてそれでいいのだろうか。少なくともカルテを外部の第三者機関がチェックする必要があるように思えるのだが。もちろん患者情報の守秘義務からすれば、病院は安易に外部への情報開示はできないだろう。しかし事態は通常の医療事務判断の域をすでに超えている。これまでにもこうした事件でカルテの改ざんはなかったわけではないし、このまま本件に関する情報が一方の当事者の管理にゆだねられているのはどんなものだろうか。