メディアの隙間から

10数年にわたるPRマン時代の感性をベースに、メディアに日々接する中で感じた??を徒然なるままにつぶやく。2020年末に本当に久しぶりに再開

不祥事対応で何も学ばない企業

 またしても有名企業の不祥事、というより不祥事隠しだ。不祥事を起こしたことはもちろん問題なのではあるが、それ以上にその不祥事を隠そうとすること、つまらない言い訳を連ねることの重大さを、いまだに経営陣は理解していない。洋菓子の名門不二家が、消費期限切れの牛乳を使ったシュークリームなどを製造・出荷していた。問題が発覚した今月11日にTVを中心に目に付いたのが、「マスコミに漏洩することは好ましくない」との社内文書である。ほとんどの番組で同じような演出で当該文書を浮かび上がらせていた。つまり、文書全体はやや暗めのしておいて、該当部分だけにスポット的な照明を当てることで、該当箇所の印象をことさらに強めるという演出である。まず画作りをというTVの体質を考えればもっともなことなのだが、あれほど明確な文書を社内で回覧する必要があったのだろうか。まともな広報マインドを持つ企業なら、はじめにこの不祥事が社内で発覚した段階で、隠しおおせない、時機を見て公表せざると得ない、と判断したはずなのだ。であれば、その時点で件の社内文書のようなものを作ることはすべきではないとの判断も生まれたはず。こうした文書は、必ず外部に漏れると考えるべきで、その文書が本来目指した社内の意思統一という目的よりもむしろ、「こんな文書まで作って、全社挙げて隠蔽を図ったのか」との印象を裏付ける格好の証拠物件になってしまう危険性に気付くべきだった。
 名門の不恰好な振る舞いはまだ続く。11日に開かれた藤井林太郎社長が出席しての記者会見の席上で、なんとも情けない言い訳をしてしまうのである。曰く「今回の事件を引き起こした直接の責任者である工場で牛乳を使う立場の人間は、ベテランのパートさんだったので、消費期限とか賞味期限とかの基準についてきちんと理解していなかったようだ」と語ったのである。社長とすれば、これは企業としての基本的な問題ではなく、たまたまそれもパートと言う組織のごく末端の人間が不注意から起こしてしまったことで、会社としても困惑しているんです、と言いたかったのだろうか。当然会見の場では、取材陣から鋭い質問+非難が浴びせられたことは言うまでもない。ところが、不二家の勘違いはまだ続くのである。14日付の新聞報道によれば、先に記者会を行った11日の午後から同社のウェブサイトが閉鎖され、代わりに事件に関連するお詫びとお知らせの文書が1枚載っているだけだという。「アクセスが急増し、サーバーがダウンしかねないと判断した。問合せ先を示したお詫び広告まで閲覧できなくなる事態を避けるため、他のページを閲覧できなくした」との人事総務部からのコメントが紹介されていた。これに対して、またも当然のごとく批判の声。前出のウェブサイトの件を報じた読売新聞は、経営コンサルタント氏の「最悪の対応であり、不祥事の際は疑惑を生まないような情報開示こそが重要である」とのコメントを載せていた。まさに、不二家は不祥事の際の企業の迷走振りを一挙に公開するショーケースのようになってしまった。15日(月)に再度、社会調査の結果や再発防止作を内容とする記者会見を開くというが、恐らくここでもウェブサイト閉鎖の意図を追及されることは間違いないだろう。
 有名企業、大企業になるほどその組織は何千人、何万人もの人間によって支えられている。人間はミスを起こすものであり、組織が大きくなるほどいつ事故や事件が起こるかわからない。これは業種にかかわりなく同じである。だからこそ販促やコスト管理など攻めの経営だけでなく、不祥事の際の守りのPRマインドが必要なのだが、いまだにこの点でしっかりとした体制作りや社内の意思統一を図っている企業は少ない。直営店だけでなくFC店でも販売自粛が全国的に広がっており、この名門が雪印の二枚を踏んでしまう可能性は否定できない。