メディアの隙間から

10数年にわたるPRマン時代の感性をベースに、メディアに日々接する中で感じた??を徒然なるままにつぶやく。2020年末に本当に久しぶりに再開

お粗末な日本の防衛ライン

 2週間ほど前、中国の原潜が引き起こした領海侵犯事件は、事件発生6日後に中国側から「技術的な原因で誤って領海に入った」とのコメントが遺憾の意とともに表明されたことで、幕引きとなった。しかし事件の発端から決着までの経過を巡っては、あまりに悠長な、というよりほとんど鈍感な日本の防衛体制、政府の現状認識ばかりが浮き彫りにされた。最新のSAPIO(12/8日号)巻頭コラムによれば、「戦わずして負けた外交戦争」と断じ、同時に今回の事件で表面化した日本の外交が抱える問題点を整理して言明している。
 まずはなんと言っても初動態勢の緩慢さ。10日の午前6時には海上自衛隊が国籍不明の潜水艦による領海侵犯を確認している。すぐに領海警備行動の発令を首相官邸に求めた。しかし実際に発令されたのはそれから2時間45分も後の8時45分のこと。すでに相手の潜水艦は領海の外に出てしまっていた。さらにこの事実を細田官房長官が発表したのは、11時過ぎだ。
 次は不明艦の正体を中国海軍の原潜であるとの断定を官邸がひどく躊躇した点。11日夜の時点では、小泉首相自ら「あまりはっきりと言わないほうがいい場合もある」などと、これはまさにたわけたことを発言している。この発言はTVのニュースでも流れたので見聞きした方も多いだろう。実はこの時点ですでに相手が中国である事は判明していたはず。その証拠には、翌12日に与党内部からも反発の声が上がったのを受けて急遽中国であることを発表するとともに、大使館を経由して抗議がなされた。ところがここで又、いかに中国が日本をなめているかを伺わせる事態が見えてくる。抗議に際して、町村外務大臣は駐日大使を呼び出したが地方出張で不在なのだという。しかし、王毅大使は次の日の13日は高野山で開かれた自民党二階グループ」のセミナーに自民党武部幹事長と出席しているのだ。セミナーの席上、大使は原潜問題には一切触れずに小泉首相靖国参拝問題を声高に批判したという。12日だけに目を向ければ、確かに東京から高野山に向けてすでに移動してしまっているなら、外相からの呼び出しに物理的に応えられないことは理解できるが、問題は10日に起こっている。当然大使としては、何らかのアクションを想定して、よほどのことがなければ地方出張などは控えてしかるべきだろう。しかも行った先は与党のセミナーだ。ことほど左様になめられている日本。
 ところで、原因は「技術的な原因」で収まってしまっているようだが、果たしてそれを真に受けている訳ではあるまい。マスコミも一様に「中国が自分でそう言うんだから、そうなんじゃない」といった論調に終始しているが。どうなのだろう。原潜という現代軍事技術力の塊が、そう簡単に技術的問題を引き起こしてそれで領海侵犯という重大な間違いをするものだろうか?目下この疑問を表明しているマスメディアはまだないようだ。