メディアの隙間から

10数年にわたるPRマン時代の感性をベースに、メディアに日々接する中で感じた??を徒然なるままにつぶやく。2020年末に本当に久しぶりに再開

場当たり主義の弱腰外務省

 3月末の読売新聞が「在上海日本総領事館の電信官の自殺事件」を巡って、遺書を公開したが、その続報である。中国諜報機関からの圧力が自殺の原因となったにもかかわらず、相変わらず中国当局は無関係を表明している。ところがこの厚顔な中国側の発言の論拠を、何とわが国外務省が与えていた。総領事館としては、自殺した電信官の遺体を上海警察から受け取って遺族に返還しなければならないのだが、その際に提出する書類である「外国人死亡書」に「自殺の動機は仕事の重圧」ということで署名していたというのだ。電信官の遺書は5通あって、上司の総領事や妻に宛てたてものには、中国側からの脅迫の様子が克明に綴られていたという。
 14日付の読売新聞に続いて、翌日の夕刊フジ日刊ゲンダイでもフォローしていたこの事件。そんな事実に反する理由を記した書類になぜ署名などしたのだろうか、との疑問が湧くのだが、その理由がなんとも情けない。夕刊フジによれば、当時、総領事館側は電信官の遺書を読んで中国側の脅迫を把握していた。しかしその事実を上海警察に伝えると発覚を恐れる情報当局に妨害され、遺族への遺体引渡しに支障をきたすと判断したのだという。そんな背景があったのだから首相官邸への報告もなかったわけだ。けちな小役人の発想そのままではないか。事なかれ主義というか、場当たり主義というべきか、当時の担当者の心根が浮かんでくるようだ。遺体を遺族にきちんとお返ししなければとの使命感から、ここはひとつ事実とは違うが背に腹は変えられない、と考えたのでは、恐らくない。単純に当局と争いになるのを避けたかっただけだろう。上海警察には、きちんと真実を伝えたうえで、万が一遺体を引き渡さないような対応があったら、毅然として抗議するのが当然の姿勢だ。電信官が身を挺して自分の国を守ろうとしたのに、その遺志を汲むべき総領事が弱腰をさらけ出した。草葉の陰でかの電信官も泣いているだろう。この国の外交官のメンタリティーは、いったいいつになったら並のレベルになるのだろう。