メディアの隙間から

10数年にわたるPRマン時代の感性をベースに、メディアに日々接する中で感じた??を徒然なるままにつぶやく。2020年末に本当に久しぶりに再開

子供たちに肌で触れることを知って欲しい

 年明け早々になんとも凄惨な殺人事件が発生した。一見仲のよさそうな裕福な家庭を舞台にした兄弟殺し。きっかけは、妹の「頑張らないないと夢も見られないよ」とのどうという事もない一言だったという。その一言で、ひとつ年上の兄は妹を殺害しただけでなく、自宅の風呂場で数時間をかけて十数個に解体し、ビニール袋に入れたまま自分の部屋にしばらく保存していた。後から遺体を処分するつもりだったというが、それにしても医学部を目指して勉強中だったというから、知能は普通以上にはあったであろうし、何の不満もないはずの裕福な家庭の子弟が、こんなに悲惨な事件を起こすとは。両親にしてみれば、本当にたまらない気持ちだろう。方や殺人事件の被害者として命を失い、方やその加害者として社会的に失ってしまった。近所でも評判の歯科医院を開業して、家族仲はとても円満そうに見えていたという。それが一日にしてあっという間に崩壊してしまったのだ。
 それにしても、このところのこうした若い人たちの事件には本当に首を傾げたくなる。以前は、殺した上に遺体をばらばらにするのは、相当な深い怨恨がなければできない仕業だった。これほどひどい事件でなくとも、このごろは簡単に人を殺したり傷つけたりが平気な人たちが若い世代に増えている。安倍内閣の目玉の一つとして期待される教育基本法改正では、心の教育にも力を注いでいくというが、今急務なのは、人と人の触れ合いとは何かを肌を通した感覚で子供たちに教えていくことだ。この事件をきっかけにある友人と話したのだが、彼はTVゲームやネットを通じて蔓延するバーチャルゲームの心理的影響が見逃せないのではないかと指摘していた。残酷な情景がバーチャル体験できてしまうことだけでなく、一番は簡単にリセットできてしまうことだろうと言う。ゲームに熱中しても結果が得られなければ、リセットしてやり直せばいい。これをそのまま実人生に当てはめてしまうものだから、何かつまずきがあったり気に入らないことがあると、簡単にリセットすることを選択する。リセットとは消去することでもある。気に入らない相手をリセットして消去したら、今度は自分の人生もリセットでやり直し。自殺の増加も関連性がありそうだと、その友人は指摘していた。昨年の中学生を対象にしたある調査では、何と半数以上が生まれ変わりはあると信じているのだと言う。だから平気で自殺を選択するし、人を殺して人生をリセットしてしまうのだろうか。
 学校でのいじめだけでなく、さらに社会に出れば、生きることへの重圧が待っている。そのほとんどは対人関係、つまり人と人の触れ合いから生じるものだ。しかし一方では、人との触れ合いは心を和ませ力を与えてくれるものでもある。もっと人間同士の触れ合いを肌で感じることを子供たちに学んで欲しい。人間とは、元来生々しいものだし、感情で行動することのほうが多い。判断を間違えることも多い。つまり不完全な存在なのだ。だから面白いともいえるし、魅力である。人の評価でよく耳にする言葉に「人間くささが魅力」と言ったりするが、その対象となる人間はほぼ例外なくわがままであったり、いい加減であったり、抜けていたりする。正確無比な機械のような人間などありえないし、もしいたとすればまったく不気味なだけだ。そうした人間同士のコミュニケーションの基本は肌の触れ合いである。肌で触れるとは、感情をぶつけあい吸収しあうこと。さながら押しくらまんじゅうのごときものなのだ。ゲームのように単純ではない。だからしんどい、しかし面白い。これが重要なのだ。このしんどい作業をあえて子供たちに押し付けていくこと、そしてその面倒くささやしんどさから逃げないことを教えることが必要なのではないだろうか。