メディアの隙間から

10数年にわたるPRマン時代の感性をベースに、メディアに日々接する中で感じた??を徒然なるままにつぶやく。2020年末に本当に久しぶりに再開

データコラム「Nipponチャチャチャ」

hamachan2004-04-18

[執筆:三木 賢治(みき けんじ)]
ジャーナリスト。1949年生まれ。
73年、毎日新聞入社。

社会部で事件取材の経験が長く、社会部デスク、編集委員、「サンデー毎日」編集長などを経て、現在は論説委員

◎日本の文化や習慣をテーマに、いろいろなデータを踏まえてちょっと薀蓄も含めてお届けします。
タイトルは、「日本が面白い。頑張れニッポン」そんな願いを込めて名づけました。これからもお楽しみに。◎

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*濃厚な季節

 初めて雪国の春を経験したのは30余年前、新聞社に入り、見習いとして赴任した秋田でのことだ。辞令は東京の本社で1カ月間の研修を終えた後の5月1日付だったから、冬を知らずにいきなり春が始まった。
 そのせいか、人々が連日、公園や川原や田んぼの畦道などのあちこちにゴザを広げ、弁当をつまみながら談笑したり、民謡を歌ったりしている光景を見て驚いた。梅や桜の名所に限った話ではない。桜などは一本も見当たらぬ何の変哲もない町角の空き地でも、人々が集って浮かれている。どこが楽しいのだろう、よほど呑気な人ばかりなのか……と不思議に思えてならなかった。
 一冬越すと、秋田の人々の心意気が分かったような気がした。雪が降りしきるか、降らずともどんよりと低く垂れ込めた雲の下での生活を半年近くも余儀なくされた後だから、雪が消えた春がことのほかうれしい。四季の変化に乏しい東京辺りに住んでいては味わえぬ喜びがあった。雪国に住む人々の特権、いや越冬したことへの神様からのご褒美かもしれない。
 しかも、雪国の春は冬が突然、遠のいた後へ駆け込んでくるから面白い。世間では、冬が足早にやって来る、というが、実際は冬は戸惑いながら来るもので、足早なのは春だ。雪間からバッケと呼ぶフキノトウが生き生きとした薄緑色の顔をのぞかせるのを合図に、ツクシが生え、コブシが白い花を開く。そして、タンポポ。前後して梅、その梅が散らぬうちに桜前線が到達する。山あいでは色の濃いヤマザクラが花をつけ、桜が終わらぬうちにツツジ、サツキも咲き誇り、湿地ではミズバショウまでが白く気品ある姿を見せる。
 これでもか、これでもか、と花々が美を競うのだから堪らない。まさに百花繚乱。浮き立つ気持ちを抑えられずに人々が外に飛び出し、宴を張るのも無理はない。つい何日か前までモノトーンだった世界が、いつの間にか色鮮やかににぎわい出しているのだ。北に行くほど4月の気温上昇率が大きいので、南国より春の訪れは遅くても、雪解け後は一気に遅れを取り戻してしまう。それが雪国の春を濃密にする理由だ。
 東北人の気質は粘り強い、と昔から言われる。雪に閉ざされた長く憂鬱な冬に耐えるからだという。果たしてそうか。耐えるからというより、我慢すれば弾けるような春が訪れることを承知しているせいではないか。春を夢見、夢叶う日が来ると信じる心が、苦難に立ち向かう気概を育むのだろう。
 豊かさと技術革新によって冬の暮らしが快適になったことを、歓迎してばかりはいられない。辛さが薄れれば、夢見ることを忘れてしまいかねないからだ。若い人々がフリーターに甘んじたり、将来設計を描き得ずにいるように映るのは、冬の辛さも春の喜びも知らぬせいではないか。拝金主義に陥ってマネーゲームに狂奔する若者が目立つのも、金銭欲だけのモノトーンの夢しか抱けなくなっているせいではないか。雪国の濃密な春の喜びを、多くの若者に伝えたいと思う。

*<データ・梅と桜の開花平年日>
 4月は全国的に気温上昇率が1年で最も大きい月間だ。しかも北に行くほど上昇率が上がる。そのせいか南の地方では梅が咲いた後、間を置いて桜の花が開くのが一般的だが、北国では桜前線が先行した梅前線に追いついてしまう。たとえば東京では、梅と桜の開花平年日の間隔が55日もあるのに、北上するほど狭まり、新潟では21日、秋田では7日、青森では3日と接近。札幌では逆転して梅が遅く咲いたりする。

     梅の開花日  桜の開花日
札幌    5月 6日   5月 5日
青森    4月24日   4月27日
秋田    4月14日   4月21日
仙台    3月 4日   4月14日
山形    4月 3日   4月17日
福島    3月10日   4月11日
新潟    3月23日   4月13日
長野    3月23日   4月15日
前橋    2月26日   4月 2日
宇都宮  2月25日   4月 5日
水戸    2月 5日   4月 6日
銚子    2月 2日   4月 1日
熊谷    2月13日   4月 2日
甲府    2月17日   4月 1日
東京    2月 2日   3月29日
横浜    2月13日   3月29日