メディアの隙間から

10数年にわたるPRマン時代の感性をベースに、メディアに日々接する中で感じた??を徒然なるままにつぶやく。2020年末に本当に久しぶりに再開

外務省は何をなすべきか

 今日から4月で春到来。まさに桜も満開だが、昨日は、あらゆるメディア上で春の嵐が吹き荒れた感がある。永田議員の偽メール事件でとうとう民主党の前原代表が辞任を表明、永田議員当人も議員辞職願いを提出した。一方自民党では、旧橋本派のヤミ献金事件で、村岡兼造官房長官の無罪判決が東京地裁から下された。産業界では、新世代DVDを巡って2つの規格が先陣争いを展開する中、HD-DVD陣営の筆頭、東芝ソニーなどのブルーレイ陣営に先んじて発売を開始した。その席上でのコメントには、ブルーレイ陣営に対して真っ向勝負を挑むまことに挑戦的な響きがあった。スポーツ界では、WBCの余勢を駆ってパリーグに続きセリーグも146試合のペナントレースが始まリ、注目の巨人・横浜戦は12対2で巨人の圧勝、プレーイングマネージャーとしての初挑戦となる古田監督率いるヤクルトは、4:3で阪神戦を制した。
 そして最も気になるし腹が立ったのは、去る04年5月に上海の日本領事館の通信担当館員が自殺した事件である。読売新聞が、この館員の遺書を入手し1面トップに続いて2,3面までを使って詳細に報じていた。他紙では見受けなかった記事なので、読売のスクープだ。久しぶりの大型スクープではないだろうか。一部伏せられている箇所もあるが、事件の発端から自殺を選択せざるを得ないところまで追い込まれ、最期は「日本を売らない限り私は出国できそうにありませんので、この道を選びました」とまで綴っていた館員の悲痛な覚悟が胸を打つ。記事によれば、巧妙で執拗な中国側諜報組織の手口が克明に記されており、それを裏付ける中国語の文書も確認されているという。我が政府はこれらの資料に基づいて、領事関係に関するウィーン条約違反と断定したのだが、当の中国政府は「館員の自殺と中国当局者はいかなるいかなる関係もない」とのコメント。まさにシラを切っている。
 自殺した館員は、総領事館と外務省との間で交わされる機密性の高い文書の通信を担当する電信官という職責にあった。真面目な人柄であったというが、遺書は総領事と家族、同僚に宛てていずれもパソコンで5通を作成してあった。特に総領事宛宛てには5枚にのぼる長文を遺した。中国側の接近から自殺を選択するまでの経緯を箇条書きを交えて分かりやすく克明に認めてあったという。いかにも人柄を偲ばせる、外交官僚としての最期の仕事だった。当初外務省は、この事件を公表せず、なんと首相官邸にも報告していなかった。その陰では、中国側に対して厳重講義と調査要請を行っていたのである。その後1年半以上経過した05年末に、読売新聞や週刊誌の報道で発覚した。そのため外務省では、それ以上隠しておくことができないと判断したのだろうか、急遽中国政府による重大なウィーン条約違反があったと発表することになる。しかし、その後も遺書の存在自体を認めながらも内容は公開してこなかった。今回のスクープにより、対中国の外交政策はどんな変化を見せるのだろうか。少なくとも外務省の秘密主義だけは変わらないようだ。遺書の全容紹介記事を受けて、掲載された同日に早速外務省は、谷内正太郎次官を委員長とする秘密保全調査委員会を設置した。関係者の事情聴取などにより、外部に流出した経緯などを調査する。同委員会では、省内で遺書を手にした可能性のある職員全員について調査する方針らしい。外務省が秘密保全に関して調査委員会を設けるのは初めてのことであり、極秘文書が外に出るのは由々しきこと、とのコメントを発表している。現地の上海総領事館での調査も検討している、とのことだから、かの館員の同僚の皆さんやさらには家族への事情聴取なども実施されるのだろう。
 この国の外交センスはまったくどうなっているのか。秘密保持を掲げて面子を大事にすることよりも、今なすべきはせっかく公になってしまったのだから、かくなる上は中国側に対して毅然たる態度で真相究明と責任の所在を追及することだろう。やるべきことを分かっていないとしか言えない。相変わらず彼の国は、「靖国参拝を行わないならいつでも首脳会談に応じよう」などと、我田引水的発言を繰り返している。これでは、身を挺して国を守ろうとした館員の魂も浮かばれまい。