メディアの隙間から

10数年にわたるPRマン時代の感性をベースに、メディアに日々接する中で感じた??を徒然なるままにつぶやく。2020年末に本当に久しぶりに再開

メディアはもっと原発の安全追求を

 04年に続いてまたしても新潟地方で大きな地震があった。各地の被害も詳しい情報が発表されるに従って、次第に増加しているようだ。今回の地震では、東京電力柏崎刈羽原発で火災が発生したが、変圧器から黒煙が吹き上がる様子をTVで見て不安を感じた人も多かったのではないだろうか。同原発では、放射能を含んだ使用済み燃料プールの水の一部が海に漏出したこともあり、改めて原発の安全管理に関心が集まった。しかし、報道の多くは被災地の現状や非難住民達の不安げな表情を点描するだけで、この問題についての詳細な調査報道の類はまだ行っていないようだ。専門的な技術知識を要することもあり、各方面に取材し技術的な裏づけをとって記事にまとめるためには、時間が必要なことは確かだ。紙面への反映までには、もう少し時間がかかると見ていいのだろうか。原発事故といえば、米・スリーマイル島、ロシア・チェルノブイリが世界的に大きな事故として記憶に残っているが、その影響の深刻度は他の産業施設の事故の比ではない。それだけに、原発の安全管理は、100%の絶対性を求められる。しかしどうも日本の原発関係者の間には、技術的なことは素人には難しいから、説明しても仕方ない、との風潮があるらしい。これは取材記者にとっての障壁になるだろうが、ぜひこれを乗り越えて充実した調査報道を期待したい。
 これに関連して、ある論評記事が目に付いた。日経BP社の運営するSAFETYJAPANというセキュリティ情報に関するポータルサイトからの発信であった。建築&住宅ジャーナリストの細野透氏による「柏崎原発の被災を許した大ポカ答弁書」と題するものだ。氏は記事の中で、原発事故に際しての東京電力のコメントを引き合いに、同社の消防能力に疑問符をつけざるを得ないとしつつ、その背景として3年前の中越地震の際の小泉首相答弁書に言及している。これは首相が柏崎原発に関して提出したもので、それを大ポカと断じたのである。当時、地震の少し後に新潟選出の近藤正道参議院議員が「原子力発電所に関する質問主意書」に対する回答として、首相から出されたものだという。この主意書には二つのポイントがあった。以下、記事から引用させていただくと、
・耐震設計審査指針では直下地震の規模をマグニチュード6.5と
想定している。これは過小評価につながらないか。
・耐震設計審査指針の定める地震の速度・加速度の算定式を改め
なくてよいのか。
というもので、これに対して小泉首相は当時の扇千景参議院議長に答弁書を提出したのだが、その内容は、
・敷地の直下または近傍に、マグニチュード6.5を超え、敷地に
大きな影響を及ぼす可能性がある地震震源となり得るような
活断層がないことを確認している。マグニチュード6.5という
直下地震の規模を見直すことが必要となるとは考えていない。
・耐震設計審査指針では、地震の速度・加速度の算定式を定めて
いるわけではないので、お尋ねの点にお答えすることは困難である。
というもの。
 細野氏がまるで門前払いと断じたこの答弁書が、実は政府の原子力行政と電力各社の安全管理への取り組みの杜撰さを象徴しているとみることができる。まず、震源地についての認識である。04年当時の震源地は確かに日本海沖合いであった。しかし、今回の震源地は柏崎市原発建設地の北およそ10km程度なのだ。まさに直下、少なくとも近傍といえるのである。また、地震の速度や加速度の算定式を定めないで耐震設計を実現することはできないのだろうと思うが。氏は記事中で次の点について正式なデータ公開を求めている。
・今回の地震で、原発では何ガル、何カインが記録されたのか。
・今回の地震原発にはどの程度のダメージがあったのか。
・変圧器は何ガル、何カインで設計されていたのか。
・変圧器はなぜ破壊したのか。
さらに、政府は3年前の近藤議員の質問にもしっかりと回答することが必要だとしている。
つまり、
・今回の地震原発の「近傍」なのか、そうでないのか。
原発設計の最大速度は何カインで、最大加速度は何ガルなのか。
・最大速度、加速度に襲われたとき、原発はどんな状態になるのか。
ということだ。これらを反映した調査報道が今後メディア各社から発表されることを期待したい。