メディアの隙間から

10数年にわたるPRマン時代の感性をベースに、メディアに日々接する中で感じた??を徒然なるままにつぶやく。2020年末に本当に久しぶりに再開

車内での携帯使用禁止の背景って?

 携帯電話が、日常生活の中でのコミュニケーションツールとして、定着してから久しい。今では、仕事だけでなくさまざまな連絡や確認などの手段としてビジネスシーンだけでなく、不可欠な道具となっている。たまに、仕事の連絡手段として「携帯の番号は?」と聞かれて、持っていないと答えると、「あ〜持っていないんですか?」とびっくりされることさえある時代になった。そのくらい生活に浸透してくると、所有する理由が好みや便利だからという個人的なものではなく、すでに持つこと、使うことが社会的な強制力にまでなっているのが実情だ。そうなると問題なのは、電車など公共の交通機関内での使い方であり、そもそも使っていいのかいけないのか、ということだ。携帯電話が普及し始めた頃は、公共の交通機関の中での使用を規制する理由として挙げられたのは、話し声が大きくなって周りの人に迷惑だから、ということだったと思う。ほどなく、携帯電話から漏れる電磁波が近くにいる人の心臓ペースメーカーなどの医療用機器に悪影響を及ぼす可能性がある、との理由が大勢を占めるようになった。ところがその後、この電磁波の悪影響説の根拠が不明確だとの指摘も出てきて、その頃から車内での携帯電話使用に関する規制の理由付けがどうも曖昧になってしまったように思える。
 こうした観点で、携帯電話を規制する車内放送の標準的な内容を聴いてみると、ちょっと変だなと感じる。「マナーモードにして、車内での携帯電話のご使用はお控えください。また優先席の近くでは電源をお切りください」というのが目下の一般的な車内アナウンスのコメント内容だが、まずマナーモードにしましょう、というのは要するに着信音がうるさいから鳴らないようにしろ、ということだ。話し声がうるさいとの理由なら、完全に使うな、という言い方になるべきだ。実際、使う立場になってみると、仕事での連絡はどこでもとれなければ困るだろうし、車内で着信を取る人の多くが小さな声で「今電車で移動中なので後で折り返しかけ直します」といって、すぐに切っている。車内で完全に使うなと言われるのは困るのである。次に優先席付近では電源を切れ、と言うのは電磁波が医療機器に悪影響を与える恐れがあるからだろう。しかしである。心臓ペースメーカーは優先席に座る人だけが装着しているとは限らない。車内のどこにいるか分からないのである。ならば、全面的に車内では使用禁止とすべきなのだ。ところが不思議と、全席禁煙みたいに車内では携帯電話は一切だめ、と表現している交通機関には遭遇したことがない。
 一方で、メールである。現在車内で携帯電話を使っている人のほとんどがメールを見ている。まるで着信から何秒以内にとらないとペタルティ?、と余計な心配をしたくなるほど、必死でメールチェックをしている人のなんと多いことか。携帯電話を手の中で開きっぱなしにして、電車に乗っている間中、ずっと液晶画面を眺めている人も少なくない。電源が入っているのだから、電波は受信しているわけで、電磁波も発生しているはずである。となれば、医療機器への影響はある。ところが、メールを止めなさい、とのアナウンスは聞いたことがない。さらに言えば、ゲームに熱中している乗客も結構見かける。これとて電波を受信していることに変わりはないはずで、これも禁止のアナウンスはない。つまり、携帯電話の電波が医療機器に悪影響を与えるとの論理的な根拠が始めから希薄だったのにアナウンスが一人歩きし始めた。交通機関各社にすれば、社会的風潮だからいまさら止めるわけにはいかない、というのが本音ではないだろうか。かほどに車内での携帯電話は、当たり前の風景になってしまったし、禁止する論拠が曖昧なのだ。後はマナーの問題だから、車内で使う時は小さい声で周りの迷惑にならないようにしてくださいね、という程度でいいのだろう。ところで諸外国では、この問題はどうなっているのだろうか。そういえば、車内アナウンスがこんなにも細かく親切で、結果的にやかましいのは日本だけか。