メディアの隙間から

10数年にわたるPRマン時代の感性をベースに、メディアに日々接する中で感じた??を徒然なるままにつぶやく。2020年末に本当に久しぶりに再開

何故か急増、食品回収広告の怪?

 このところ連日のように食品回収の告知広告が目に付く。今日、何故か眼に留まって1週間分ほどのバックナンバーを繰ってみたら、社会面の終面にズラッと並んでいる。すべて見たわけでないが、ほぼ毎日掲載されていただろう。改めて眺めてみるとなんとも奇怪な現象ではある。内容はさまざまだ。マーガリンの中にごく微量のめっき片が混入、消費期限切れの洋生菓子を販売、紅茶パックの賞味期限に表示ミス、中国から輸入した米麺に使用禁止の遺伝子組換え米を使用、ハムの賞味期限に記載ミス、アルゼンチンから輸入販売した食品に禁止されている食品添加物を使用、などなどである。実にバラエティに富んでいる。ことほど左様に食品に関するトラブルは多いのかと、びっくりする向きもあろうが、そうではない。食品関連のトラブルが急増したのではなく、増えたのは告知広告なのである。
 上記の中でこれまでにも広告対象になったであろう案件は、マーガリンへのめっき片混入くらいだろうか。遺伝子組換え米や食品添加物も対象になる可能性はある。しかし、消費期限切れの洋生菓子販売については、なんとたった2ケである。しかも販売したのは1月20日で、広告掲載は23日。広告内容は、お詫びと回収方法についてお問い合わせくださいとあるが、どうやって回収するというのか。現実には販売時刻は午後5時過ぎとあるから、その日に持ち帰ってすでに食べ終わっているはずで、その場合の処置については何も具体的に表示していない。たった2ケの洋菓子を買ってレシートや領収書を保管しておくとも思えず、購入者の特定は不可能だろう。その場合、もし「広告を見た、しかしすでに食べてしまった。大変なショックを受けている。この精神的な償いをどうしてくれるのか?」などと言ってこの広告主にクレームをつけようとする不埒な輩が現れたら、この企業はどう対処するのだろうか。妙な想像をしてしまった。
 これら告知に見るように、何故か食品に関するトラブルが急に増えたように思えるが、実はそうではない。この程度のトラブルは、これまでにも相当発生していたはずなのだ。そもそも企業としては、今回紹介したいくつかの事案ではメディアを通じて発表すべきトラブルとの認識すらなかったろう。ただ、新聞広告で告知することが企業の防衛的広報アクションとして効果があると判断され始めたに過ぎない。きっかけはもちろん不二家である。ちなみに今回の中で、メディア的な関心の対象となりそうなのは、マーガリンへのめっき片混入くらいかと思えるが、それとて広告以降に報道されている気配はない。振り返ってみよう。もし不二家が、昨年初期の段階で早々と今回の問題をこのような自主告知していたらどうだったろうか。企業の存続を危うくするような、そして次から次へと新たな問題が発覚するような取材攻勢は受けなかった可能性は高い。であればこそ、こうした告知広告は今後も増えていくし、問題を最小限にとどめる有効な防衛手段として定着していくのだろうか。それとも一時の流行で、少し時間がたてば沈静化するのだろうか。今後の成り行きを見守っていきたいと思う。さらに重要なことは、これら自主広告の背景に垣間見える本当の企業不祥事を見過ごさないことだ。