メディアの隙間から

10数年にわたるPRマン時代の感性をベースに、メディアに日々接する中で感じた??を徒然なるままにつぶやく。2020年末に本当に久しぶりに再開

またも振られた「建前という正義の旗」

 21日に政府税制調査会本間正明会長が辞任した。官僚体制から官邸主導型の政治を目指す安倍内閣の目玉ともいえる本間氏は、着任早々から官舎に愛人と同居し、これがけしからんというのが簡単に言えば辞任の引き金だ。釈明の記者会見など何かと悶着があって、結局辞任という結果になってしまったのだが、辞任翌日の新聞論調は例えば読売新聞の見出しを見てみよう。曰く「政権痛撃」「一身上の都合・・官邸世論風圧に態度一変」「格安官舎に知人女性と無届同居――批判集中」など、いずれもとんでもないことを仕出かしてくれた、との印象が強い。この件についてのメディアの論調は、ほぼ異口同音なのであろう。またしても「建前という正義の旗」を打ち振ることで、内閣政策の中核をなす人材を辞任に追い込んだ。先に日銀総裁の福井氏が村上ファンドに1000万円ほどを投資して問題となった件とは違うのではないだろうか。本間氏の今回の件は公私混同でもないし、公金横領したのでもない、公的立場を利用して不当に利益を得たのでもない。
 辞任が決まる数日前の記者会見の場で、本間氏は「確かに妻とは離婚調停中で、それが済めば件の女性とは正式に入籍の予定であるが、それはあくまで個人的な問題である。」と特に隠し立てすることもなく述べている。彼にしてみれば、いわゆる不倫ではなく(仮にそれが事態のきっかけであったにせよ)、正式に離婚してから入籍する予定なのであったから、やましいところはないとの判断だったのだろう。確かに女性との同居に関しては、国家公務員宿舎法施工規則によれば、「主として貸与を受けた者の収入で生計を維持する者以外の者を臨時に同居させるときは承認を受けなければならない」と規定されている。この点では、手続きを怠ったと認めているが、だからといってそれが辞任すべき原因となるのだろうか。財務省によれば、入居自体は他にも例はあるし、女性の同居に関しても届け出を修正して出し直せば問題はない、としている。官舎の格安家賃を設定したのは彼の責任ではないし、立場を利用して優先的に入居したのでもない。女性を入れてしまっただけなのだ。正式に配偶者にしてからなら問題にはならなかった、のだと思う。もう少し待っていればよかったのに。今、そのことをもっとも感じているのは本間氏自身だろう。
 それにしても今回の件は、端緒となった12月11日の週刊誌報道で「親しい女性と国家公務員官舎で同居」していることが判明したからだ。それからわずか10日で辞任せざるを得なかった。彼が税制調査会会長として、職責を果たせなかった、公務上での大きな過ちを犯した、などであれば辞任も止むなしと思うのだが、彼はまだ何の仕事もしていない。読売新聞の記事の隣に並べられた社説欄では、「時には税負担増を国民にあえて提案しなければならない立場だ。個人としての振る舞いにも、曇りのない清廉・公正さが求められる」と述べている。しかし、今回のことは果たして税制調査会会長という専門職を辞さなければならないような要因にあたるのだろう。ならば、国会議員を含めて閣僚や官僚幹部が、すべてにわたって公明正大、清廉潔白であると言い切れるのか。新聞論調は、またこうも述べている。国民の税負担のあり方を考える政府税制調査会長として軽率。もっと世論に耳を傾け対応すべきであると。こうした論調で、また一人プライベートな理由で公職から追放された。あえて喧嘩を吹っかけるつもりでいえば、日本のマスメディアの子供っぽさなのかも知れないと思う。大人であれば、公私の公と私は別であって、公職にある人間はその職責でだけ評価される。しかしその評価は厳しいものであるべき、との感覚は間違いだろうか。