メディアの隙間から

10数年にわたるPRマン時代の感性をベースに、メディアに日々接する中で感じた??を徒然なるままにつぶやく。2020年末に本当に久しぶりに再開

広がる図書館の荒廃

 公共の財産であるはずの図書館の蔵書を傷める行為が、後を絶たないという。12日付けの読売新聞夕刊によると、特に多いのは「切り抜き」と「線引き」である。一般図書では、さすがに切り取りや破り取りは少ないのだが、線引きはなくならないようだ。何と300ページにわたって論文にそっくり線引きをしていた例もあったという。特にひどいのが雑誌で、図書館の係員がファッション雑誌からヘアスタイルの写真を切り抜いている女性を見つけ、注意すると「どうしていけないんですか?」と悪びれもせず反論した例もあるという。被害は図書や雑誌に限らず、新聞の縮刷版から1ページをそっくり引き抜いてしまうケースもあった。記事で紹介されたのは、都内世田谷の区立中央図書館や横浜の市立図書館、千葉県市川市の中央図書館など首都圏の例であったが、こうした事例は全国的なものだろう。中でも横浜市の例では、今年6〜9月の4ヶ月間だけで切り抜きや書き込みの被害で処分対象になった雑誌や書籍が921冊にのぼり、金額にして147万円だという。これはもはや犯罪ではないのか。しかも、嘆かわしいのは中高年向けの蔵書でも被害は見られ、幅広い年齢層でマナーが低下しているとの指摘がある。
 実は私事で恐縮なのだが、筆者の家庭では3人いる子供たちにすべて「欲しい本は何でも買ってあげる」と昔から宣言してきた。極端に言えば本を買うのに、金に糸目はつけない、との親の意思表示だ。その代わり、本は徹底的に大事にするようにやかましく言ってきた。学習参考書など一部の例外を除けば、基本的には本への書き込みや切り取りは言うに及ばず、ページをめくるときにも端っこを折らないように丁寧に扱うよう細かく注意している。本は文化であり、それを粗雑に扱うことは文化をないがしろにする行為であることを理解させたかったからだ。本が好きで、週のうち何度か書店を覗くのだが、そこでも図書館の荒廃を裏付けるような行為を眼にすることが多い。もちろん切り取ったり、線を引いたりなどの行為はさすがに見ないが、平積みされている書籍に寄りかかったり、ましてや雑誌コーナーでは棚の手前に積んである雑誌類に膝を押し付けるようにして体重を掛けて半ば寄りかかって立ち読みしている客の姿を必ずといっていいほど見かける。見ていると、ついいたたまれなくなってしまう。そんな時、その寄りかかっている人間に対して、ちょっと失礼と言いながらわざとその寄りかかっている場所の本を手に取るようにするのだ。当然、その人間は脇へどくことになるから、それで膝の圧力で押し曲げられていた本は窮屈な思いから開放されることになる。そんな神経質な、と思われるかもしれないが、本当に「本が可哀想!」と思ってしまうのだ。それと読んだ本はちゃんと元の場所に戻せ、とも言いたい。これも大変多いのだが、手当たり次第読み散らかして、読み終わったらその辺にぽーんと放り出してそのままという人間たち。こうした書店での光景が、実は図書館の荒廃に結びついているのではないかと思う。こんなことは、会社や学校では教えてくれない。だから、図書館の荒廃の背景にあるのは、家庭で本を大事にという当たり前の躾ができていないことの証左に他ならない。