メディアの隙間から

10数年にわたるPRマン時代の感性をベースに、メディアに日々接する中で感じた??を徒然なるままにつぶやく。2020年末に本当に久しぶりに再開

目標があれば生きて行ける

 日本、米国、韓国、台湾の代表チームが参加した、第1回世界身体障害者野球大会が今月4〜5日の2日間、神戸市のスカイマークスタジアムで開かれた。筆者は、6日(月)放送のTV朝日「報道ステーション」のスポーツ特集で知った。大会では、参加4カ国が総当たり戦で優勝を目指すことになっており、日本チームは台湾、韓国に勝って5日の米国との決勝戦に臨んだ。140キロ台の速球を投げるエースを擁する米国チームに対し、わが日本チームは、初回に4点を先制するとそのままの勢いで7点を先取し、7-0でコールド勝ち。先のWBCでの王ジャパンに続き、初代世界チャンピオンとなった。この試合を紹介した同番組を見て、好きなことがあり応援してくれる人がいれば、生きることが楽しくなるし、そうすると新しい発見もできてさらに前に向かって歩いていけることを悟った。
 番組では、この試合の様子だけでなく先頭バッターとして出塁率75%を誇る隻腕の2塁手、岡原年秀さんにスポットを当てていた。彼は、野球とともに青春時代を過ごし、社会人になってからも情熱を傾けていたが、あるとき仕事上の事故で利き腕の右腕を失ってしまう。それからは大好きな野球もできず、悲嘆にくれる毎日で外出も億劫になっていった。そんなある日、身障者の野球大会があることを教えてくれる人がいて練習から試合に参加するよう誘ってくれたという。戸惑いもあったのだが次第に興味を感じ始め、残った左腕を武器に文字通りゼロからの練習を始める。番組進行役の松岡修三氏のインタビューでは、戸惑いから可能性を見出し、さらに新たな発見をすることで積極的に歩き始める岡原年秀さんの前向きな発想が明るい人柄とともに紹介された。次第に障害者としての意識をマイナスとして引きずるのではなく、むしろ仲間意識や練習で上達することへの興味が勝っていたのである。
 このエピソードに触れて、最近問題視されているいじめ=自殺原因の問題への答えが潜んでいるのではないかと感じた。いじめをなくすこと、いじめる子供たちにいじめるなと教えることよりも、被害者になる子供たちに、耐えられる強いハートを植えつけることが大事で、しかもこの点が実は抜けていたのではないだろうか。未来に希望があり、日々が楽しければ目の前に少々辛いことがあっても乗り越えられるはずだ。それに加えて、いじめの悩みに耳を傾けてくれ、一緒に戦ってくれる味方がそばにいれば、子供は簡単に死を選ぶことはしないはずだ。岡原さんはこのように語っていた。「腕を失った当初は、希望がなく失ったものばかりに目が行っていた。しかし片腕での練習を始めたらすべてが初めての体験ばかり。左で投げたことはないし、ボールをキャッチする手と投げる手が同じなので、グラブでキャッチした後すばやくグラブを脱ぎ捨てボールを左手に持って投げる。バッティングも左手1本。すべてが初めてということは、何をやっても毎日のように発見があり、練習しただけ上達する。いったい自分はどこまで巧くなるのか、とことんチャレンジしてみようと思った」何でもいいから、楽しいことや励みになることがあれば、人間は前を向いて歩いていけるのだ。子供たちへの大人の責任は、まさにこの励みをどれだけ与えられるかだろう。