メディアの隙間から

10数年にわたるPRマン時代の感性をベースに、メディアに日々接する中で感じた??を徒然なるままにつぶやく。2020年末に本当に久しぶりに再開

TVジャーナリストの迂闊な発言

 TBSテレビの昼の報道番組「きょう発プラス!」で、14日(火)OAした話題のひとつに10年前の落雷事件を巡る最高裁判決があった。この判決についての同番組の常連コメンテーター大谷昭宏氏のコメントは、いかにも役人的な発想でこのところTVを中心に売れているジャーナリストとは思えない内容だった。
 事故は当時、私立土佐高校高知市)1年生だった北村光寿さんが大阪府高槻市で開かれたサッカー大会に出場中、落雷の直撃を受けて重症となり、視力障害などの重い障害を負ったというものである。本人と家族は、学校関係者と大会関係者に対して安全配慮義務を怠ったとして3億円の賠償を求めて訴えていた。最高裁の判決内容は、当時の引率役だった学校あるいは大会関係者の危険回避義務について不可抗力であり、過失はなかったとした1審、2審の判決を覆して差し戻しを命じた。

 大谷氏はこれを受けて「重すぎる判決」と評したのである。当時の状況では落雷の可能性を先生たちが察知するのは難しかったのではないだろうか、とコメントを発していた。さらにこういう判決が出ると、先生が及び腰になるとして、鉄棒で子供が落下事故で怪我したような場合今の学校ではすぐに現場に駆けつけず、先ず何で先生のいう通りしないんだ?と声を発してから現場に行くようにとの校長からの指導があると指摘し、そういう風潮を加速するのではないかと述べていた。しかし当時の気象状況として「雨は上がっていたが、雷鳴が聞こえていた、黒い雲が近づいていた、時々雲の中で稲光が光っていた」などの点が指摘されている。これらは客観的な事実である。これだけの状況があっても試合を中断しなかった(あるいはできなかった?)主催者側に落ち度がなかったとの判断のほうがおかしいだろう。一人くらい「危ないかもしれない。中断して様子を見たらどうか」と言葉を発する人間がいなかったのだろうか。現に最高裁では、今回の判決に際して小学生向けに落雷の危険を分かりやすく説いたガイドブックを参考資料に採用しているくらいだ。つまり、それくらい誰でも予見できたはずの状況下での事例だ、と結論付けているのである。
 
 失礼ながらの推測になるが、恐らく大谷氏は番組の前に雷の性質や落雷被害に関する基礎的な情報収集をせずにスタジオに入ったのではないだろうか。もしそうした簡単な情報を目にしていたなら、日本で毎年落雷による死亡や重症事故がどのくらい発生しているのか、分かったはすだ。確かに数的には大きなものではないが、毎年何人かは必ず死んでいるのが落雷事故だ。それを知っていたら、今回のような軽はずみな発言はしなかったろうと思う。