メディアの隙間から

10数年にわたるPRマン時代の感性をベースに、メディアに日々接する中で感じた??を徒然なるままにつぶやく。2020年末に本当に久しぶりに再開

兵庫県警の捜査ミスに画期的判決

 先に治安低下が進んでいることに触れ、その原因として警察機構のトップの腰掛け的な事なかれ主義が挙げられると述べたが、それを実証するような判決が22日、神戸地裁であった。村岡泰行裁判長により、当時の警察の初動ミスは動かしがたいと認定されたのだ。この事件は、02年3月に神戸市西区の神戸商船大(現在・神戸大)の大学院生、浦中邦彰さん(当時27歳)が、友人とともに暴力団組長らに因縁をつけられた挙句に連れ去られて暴行を受け、近くの河原に放置されて殺されたもの。母親が兵庫県警や組長らに対して計約1億3700万円の国家賠償を求めて訴訟を起こしていた。今回の判決で、県警や組長に対して、慰謝料や逸失利益など9千万円以上の支払いが命じられた。

判決では、「事件現状に急行せず、連れ去られた情報を共有しないなど、警察官の行為は著しく不合理で違法」と明確に初動捜査でのミスを指摘したうえで、組員の攻撃的な行動などから「さらに暴行を受け死亡に至ることも十分に予見でき、救出も可能だった」と、捜査ミスと殺人の因果関係を認定している。埼玉県桶川市の女子大生殺害事件、兵庫県太子町のストーカー事件などでは、警察の不適切な対応が認定され慰謝料の支払いを命じられたが、殺人との因果関係まで認められたのは初めて。警察への問題提起として画期的な判決といえる。

事件の流れと各状況での警察の対応を簡単に整理してみると・・・
1)3月4日の深夜、神戸市西区内で被害者は友人と二人で組長らに因縁をつけられ、
その場で暴行を受ける。
2)10分ほど後に、近くの住民が神戸西署に通報。さらに10分ほどして今度は、被
害者が携帯電話で110番通報。
3)友人はパトカーに保護され、その際被害者が車に乗せられて連れ去られた可能
性を証言。
4)被害者は、他の組員の車で連れ去られて暴行を受けた末、近くの河原に放置さ
れて殺された。

こうした事実を受けて、判決では、大きく二つの判断を示した。
110番を受理した時点で、現場から60mほどにある有瀬交番に指示していれば、
被害者が車に乗せられる前に救出できた。
●現場で情報を適切に共有し、組員らへの職務質問で所在を追求していれば発見
し、保護することも可能だった。
との判断を示した。この判断の根拠になった当時の警察の行動には、まさに今問題になっている治安低下の大きな要因が潜んでいる。まず警察官の現場到着が遅れた理由。
なんと、現場からわずか60mの近さにある有瀬交番に出動指令が発令されなかったのは、仮眠時間中だったからと言うのだ。また警察官が現場に到着した後も、被害者の名前や彼が車に乗せられた可能性を聞いた警察官もいるのに相互の連絡をとらなかった。そのため、せっかく現場に警察官がいたのにその多くが被害者を保護すべきとの必要性を認識できなかった。結果的に探索もせず、一味であった組員を任意で取り調べることもせず帰宅させてしまった、という。

まったくの怠慢というほかはなく、現に兵庫県警では事件発生から2ヶ月後の5月に、当時の警察署長など10名を処分している。捜査上のミスを自ら認めたことの証だろう。しかし、母親が起こした訴訟で裁判になると、警察の言い分は「危険ならその場を離れたはずだ」という。つまり、それほど危険はなかった、あるいは危険の程度が予知できないものだったというのか。実際はもっとひどい。「逃げなかったのが悪い」との表現すらしていたらしい。
悔やまれるのは、被害者が一度は60m離れた有瀬交番に一度は駆け込んでいること。仮眠中なので出動命令が発せられなかったあの交番だ。仮眠中の警察官を見て、被害者の青年は「こりゃだめだ」と思ったのだろう。現場に残してきた友人を心配して戻ってしまった。そしてその後に車で連れ去られた。交番ではそんなに仮眠することが重要任務なのだろうか? これからは、交番にはホテル並みに「Don't Disterb!/睡眠中、起こさないで!」の看板が掛けられるのだろう。今回の判決を受けて、兵庫県警の幹部は控訴せざるを得ない、と語っているのだが、ならば先の処分はなんだったのか。せめて悪あがきは止めて欲しいものだが。それにしても、あの仮眠していた交番の警察官にその時の状況を聞いてみたいものだ。どこかのメディアでチャレンジしないのだろうか。