メディアの隙間から

10数年にわたるPRマン時代の感性をベースに、メディアに日々接する中で感じた??を徒然なるままにつぶやく。2020年末に本当に久しぶりに再開

年末は犯罪が増える

毎年今頃は、1年を振り返ってさまざまな出来事や事件が取り上げられる。そしてつい1ヶ月前の奈良の女児殺害事件では、犯人から大胆不敵なメッセージが家族に向けて複数回発信されるなど手がかりはあるはずなのに、いまだに何の進展も見られない。このところ新聞でもTVでも「日本の治安は大丈夫か?」との論調が目立つ。
今日21日のTBS TV「とってもインサイト」でもこの事件をはじめ、未解決の殺人事件を日本の治安低下と絡めて取り上げていた。今年だけでも、いまだに71件もの殺人事件が未解決なのだという。また犯罪検挙率は、平成7年には90%以上だったものが、今年は52%。何と10年でほぼ半分に落ち込んでいることになる。件数ベースで見ると、約9000件だったものが、今年は1万件ちょっと。つまり実数では変わっていない。ということは、この10年で犯罪の発生件数が倍増したことになる。対して捜査の担い手、警察官は15%ほどしか増えていない。犯罪の発生に捜査の手が追いついていないのが実情なのだ。

ゲストで出演した元警察官のジャーナリスト、黒木和雄氏によればこうした検挙率低下には3つの原因があるという。つまり・・・

1)警察官の地域差
  単純に言えば、大都会の警察官には常に犯罪と隣り合わせ、との緊張感があるが田舎では必ずしもそうではない。そしてそれはトップに立つ管理職の意識の問題でもあるという。上級のキャリア達は地方の警察署長なりその上の県警本部なりを歴任してやがて中央を狙う。その間大過なくすごせればOKというわけだ。だから日ごろから犯罪防止や検挙率向上に躍起にならずともいいじゃないの、といった風潮も生まれるものらしい。これでは現場の捜査担当者も盛り上がらないだろう。

2)操作方法の変化
  昔は平塚八兵衛のようなまさに職人と呼べる刑事がいて、神様のような勘の冴えを見せた。しかし今は科学捜査が主流。物証を優先して地味な地どり捜査はあまり見られないのだという。しかし黒木氏によれば、裁判になり公判で有罪を支えるのは物証だが、その前に犯人を捕まえるのは人つまり警察官だ。科学技術で捕まえるわけではない。犯人検挙の専門職としての刑事が減っているのかもしれない。

3)警察官の不足
  先に述べたように、この10年で犯罪件数の増加率は200%つまり倍になったが、警察官の数は15%しか増えていない。これに関連して、日本が世界に誇る治安維持システムである「交番」について最近あることが気になっている。留守が多いのだ。以前は交番には少なくとも一人の巡査が必ずいたもので、何かことがあれば交番へ駆け込めばいい、との安心感が市民にはあった。しかし最近はどうも留守勝ちなのだ。交番が頼りになるのはそこに「お巡りさん」がいるからで、ただの箱があっても何の役目もしない。

 奈良の女児殺害事件でも、しきりに言われるのは「変質者」あるいは「不審者」の存在。しかし黒木氏によれば、もしかしたらこの犯人はごく普通に家庭を持ち、妻や子どもがいるなんら不審でない人間かもしれない、という。つまり、警察の常套手段ではまず不審者から当たるので、そのことで捜査の網からの漏れが生まれるかもしれない。さらに、再度捜査方法なり視点を改めて考え直すべきかも知れない、と言いたかったのだろう。もう一つ付け加えるなら、動機の曖昧さだ。以前なら金目当て、怨恨、痴情のもつれ、などその動機から辿ることで被害者と犯人を結びつけることができた。しかし最近は、この動機が見えない殺人事件が何と多いことか。動機とは別の見方をすれば、犯行を引き起こす要因とも言えるわけだから、動機になるような振る舞いを自分でしないようにすれば多少なりとも被害者にななる確率を減らすことにもなる。しかし現状ではもうそうは言えない。自分の身は、自分で何とか守らねばならない。本当に怖い時代に向かっている。