メディアの隙間から

10数年にわたるPRマン時代の感性をベースに、メディアに日々接する中で感じた??を徒然なるままにつぶやく。2020年末に本当に久しぶりに再開

データコラム「Nipponチャチャチャ」

hamachan2004-05-31

[執筆:三木 賢治(みき けんじ)]

ジャーナリスト。1949年生まれ。

73年、毎日新聞入社。


社会部で事件取材の経験が長く、社会部デスク、編集委員、「サンデー毎日」編集長などを経て、現在は論説委員

◎日本の文化や習慣をテーマに、いろいろなデータを踏まえてちょっと薀蓄も含めてお届けします。

タイトルは、「日本が面白い。頑張れニッポン」そんな願いを込めて名づけました。これからもお楽しみに。◎

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<梅雨もどき>

 司法記者をしていた二十年も前、エリートで知られる裁判官と記者仲間で麻雀を打ったことがある。件の裁判官は「東京高等裁判所管内で一番強い」と自他共に認める麻雀名人との触れ込みだったが、遊び慣れている記者たちとは所詮腕が違った。
 ゲームの最中、裁判官は思うように運ばぬ展開に納得がいかないらしく、「おかしい、おかしい」をしきりに連発した。気の毒になり、「今日はツキもないようだし、そろそろ……」と持ちかけても、「まだまだ」と言って止めようとしない。結局、朝まで続けたが、裁判官の一人負けに終わった。
 よほど悔しかったらしく、さほど日をおかずにリターンマッチを申し込まれ、再び同じメンバーが徹夜で卓を囲んだが、裁判官はまたしても惨敗に終わった。その時、裁判官がむきになった理由が分かり、憤慨もしたが、それ以上に滑稽に思えてならなかった。彼は「おかしい。麻雀は頭のよい者が勝つゲームなのに」と、首を傾げながら何度も言い放ったのである。面と向かって馬鹿と言うのだから尋常ではない。とても良識ある法曹人の言い草とは思えなかった。
 どうやら、その裁判官は麻雀について、ツキとか勘に左右されるとしても最終的には頭脳によって決するゲームと心得、頭脳明晰な自分がブンヤふぜいに負けるはずがないと思い込んでいたらしい。どんなに連敗しても最後まで実力差を認めず、逆転勝利を信じていたのだから大した自信だったが、思い込みとは怖いものである。こんな裁判官が死刑事件まで裁いていたのだから空恐ろしい。

 札幌で暮らしていた頃、道産子たちが「北海道には梅雨がない」と言うのを何度も耳にした。しかし、北海道でも毎年六月後半から七月前半にかけて、うっとうしい雨の日が続く。湿度も高く、蒸し暑い日が多い。東京あたりの梅雨の天気と変わりないのだが、それでも道産子は「北海道に梅雨はない」と言い張って、梅雨と認めようとしない。
 冷たく湿った風が吹く梅雨寒の現象もあるのだが、北海道には梅雨がないのだから梅雨寒などあろうはずがない。その代わりに「リラ冷え」と呼ぶ冷え込みがある。六月ごろ、リラことライラックが芳香を発する白い花を咲かせる。札幌あたりではその時期、夏に向かう流れを逆行させる、ひんやりとした冷気が漂うことが少なくない。それが「リラ冷え」。何ともロマンチックな表現だが、実態は梅雨寒と変わりがない。

 多分、ひと昔前までは北海道に梅雨がなかったのだろう。だが、近年の地球温暖化の影響で南国化というか気象の本州化が進んだため、札幌あたりでも梅雨もどきのうっとうしい日々が続くようになったのではないか。道産子も少なからず、六月が爽やかでなくなったとは認めている。もともと函館など道南地方では、東北地方並みの梅雨があるといわれてもきた。
 正確なところは気象学者の研究を待たねばならないが、固定観念にとらわれて現実を直視しないのは知識人にありがちな悪い癖だ。自衛隊は軍隊ではない、との理屈や米国は自由の国、との定説も危うい情況になってきた。現実を見据えることの大切さを改めて噛みしめたい。

<データ・変わる気象>
 温暖化によって地球全体の変動が大きくなっているが、日本の大都市ではヒートアイランド現象の影響で、とくに大きな変化が生じている。気象庁のデータによると、大都市の平均気温はこの100年間で平均2.5度も上がっており、とくに日最低気温の上昇が目立ち、四季の移ろいをも様変わりさせている。

■平均気温の100年当たりの上昇量■

     平均気温  日最高気温  日最低気温
札  幌 +2.3     +0.9       +4.1
仙  台 +2.3   +0.7       +3.1
東  京 +3.0   +1.7       +3.8
名古屋 +2.6   +0.9       +3.8
京  都 +2.5    +0.5      +3.8
福  岡 +2.5    +1.0       +4.0