メディアの隙間から

10数年にわたるPRマン時代の感性をベースに、メディアに日々接する中で感じた??を徒然なるままにつぶやく。2020年末に本当に久しぶりに再開

社長の涙の陰に見えるもの

 東横イン西田憲正社長が、6日(月)午後から国交省で謝罪記者会見を開いた。ひたすら平身低頭する西田社長の姿が、TVニュースの画面で繰り返しクローズアップされていた。ついこの間、先月末に不正改造が発覚したことを受けての応対振りとはまさに絵に描いたような正反対の光景であった。取材陣に対する西田氏の先のコメントはあまりにも有名である。曰く「悪いことしちゃいました。60キロ制限のところを67〜68キロで走っちゃったみたいな感じですね」。まったく悪びれることもなくまさに天真爛漫といってもいいような回答ぶりだった。マスメディアをはじめ世論からは囂々たる非難の嵐が巻き起こったことは言うまでもない。
 それが一転して、会見場への入り方からしてすでに芝居がかっていた。ハンカチを握り締め、うつむきながら早くも平身低頭スタイルだ。報道陣からの質問が始まると、とにかく二言目には私が悪いんです、私の責任です。申し訳ありませんでした。この言葉を繰り返すのみ。責任があるのなら、社長職を辞任するのか? との質問には「そういうことじゃないんです。私が悪いんです」社内の調査結果はどうなのか? との質問にも同様。結局、メディアからは今後の会社としての対応、責任所在をどう表明するのか、違法改造をどう修復するのか、など一般にも関心のありそうな質問が浴びせられたが、どれひとつとしてまともな回答はなされないまま会見は終わってしまった。単にメディアVS西田の対決と考えると、これは西田氏の勝ちだ。会社としては、違法行為に対する具体的な情報を何も開示しないままにできたからである。そしてこうした反応に対しては、実はメディアは案外弱いのではないか、との思いも残した。これはまったく筆者の想像であるが、優れた演出家が陰でこの日の展開と結果を演出していたのではないかと感じた。先の爛漫会見の姿とこの日のお詫び会見の姿とで、どちらが西田氏の本性なのかということだ。それは言わずもがな、前者だろう。とすれば、わずか1週間かそこらであれほど極端に性格が変わるとは思えない。何か相当なほとんど霊感的な神の啓示のようなものがなければ、ああは変われないだろう。おそらく、これは計算ずくの演技だったと思えてならない。結果的に、会社としてあるいは経営者として肝心の回答は一切出さずに済んだのだから。
 それにしてもである、あの予想外の雰囲気(というより、もはや演技といってしまおう)に気おされて、肝心の答えを引き出せなかったメディアも情けない。ずばりと「下手な芝居はやめなさい。質問に答えなさい」と迫る記者が一人くらいはあるいは1社くらいはいて欲しかった。今後おそらく、この1〜2週間の間に再度西田氏が公式の場で対応について具体的なコメントを発することはないだろう。そのうちに次第に熱が冷めてくるのが目に見えるようだ。あの茶番劇の演出者は誰だったのだろうか。どこかの優秀なPRマンかコンサルタントだったのだろうか。